りんくさまさま

サイトやブログを立ち上げたら、SEO対策のひとつにテーマとされている被リンク!自力で可能、無料かつ有効なメモを・・・・と思いながら記事は脱線しまくりです。

夕立と少女【前編】

f:id:maruru42i:20120618202702g:plain

 

 蒸し暑い金曜の午後、Y氏は出張先で地方都市の郊外にいた。

初めての街だったが、どことなく親しみを感じる町並みと風景に、ゆったりとした気持ちでハンドルを握っていた。

その街は、自然がとても豊かで初夏の緑が眩しく輝き、すがすがしい香りが漂っていた。

人通りは、まばらで爽やかな白い夏服を着た帰宅途中の学生達が、チラホラと目に留まった。

Y氏は、依頼主の工場に立ち寄り、仕事を済ませ再び車に戻ろうとする頃、 空は、どんよりと曇り始め夕立の気配のする雲が空を覆い始めていた。

周辺は、宿泊施設がないため、予約した駅近くのビジネスホテルへと向かう。

「雨か・・・。」 湿っぽい匂いがする。

ゴロゴロ・・・ゴロゴロ・・・ゴロゴロ・・・ピカツ・・・・・

f:id:maruru42i:20120618202743g:plain


遠くから聞こえる雷鳴にあわせるように、ゆっくりとブレーキにも、足がかかる。

ちょうど、工業地帯を抜けて、国道から駅に続く細い道へ入る頃、空は真っ暗になり、ポツポツとフロントガラスが音をたてはじめた。

夕立の雨足が、一気に加速した。

ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・

さっきまでの、蒸し暑さが嘘のように、車内の空気がヒンヤリとする。

ふと窓から、女子学生が一人、早足で歩いているのが見えた。

辺りには、人影もない。

「学校の帰り道だろうか・・・。何処かで雨宿りすればいいのに・・・・。」

そんなことを思いながら、おせっかいと思いつつ、学生よりやや前方ぐらいのあたりでとブレーキを踏み、ハザードをつけた。

助手席の窓をあけ、大きめの声で話しかける。


「よろしければ、乗りませんか? どこまで行きますか?」


ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・

女子学生は、一瞬立ち止まり、こちらを見たような気がした。

「○○○駅まででしたら、行きますよ!大丈夫ですか?!」  Y氏 は、さらに叫ぶように、大きな声を出した。

f:id:maruru42i:20120618202811g:plain



ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・



物騒な事件が多い昨今、知らない人の車に乗るのは、やはり抵抗があるのだろう。

しかし、ネクタイ姿でワイシャツの袖をまくりあげ、社用車のバンで、電話番号まで入った社名のロゴを確認したのだろうか・・・・


女子学生は、紺色のカバンを抱きかかえると無言で、後部座席のドアを開けて、乗り込んだきた。


多分このままシカトされたままだと決め込んでいたY氏は、一瞬驚いたが、後部座席のほうへゆっくりと振り向いた。


長い黒髪が、まるでシャワーでも浴びたかのようにビッショリと濡れ、白い夏服もピッタリと張りつくぐらいに、濡れていた。

Y氏 は、あわてて前方を向き直すと穏やかな口調で、話しかけた。


「大丈夫ですか?」

「・・・・・・。」 

私は、助手席においたあった汗拭きようの手ぬぐいを、握ると前をむいたまま、タオルを後ろに見えるようにして、差し出した。


「少し汗くさいかもしれませんが、よかったら使って。学校の帰りですか?○○○駅前まで行きますが、そこでよろしいですか?」

「・・・・・・。」 



ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・ザーッ、ザ・ザーッ、ザーッ・・・・・・

車の中の狭い空間が、激しく降ってくる雨音だけに包まれる。

タオルが静かに引かれ、Y氏の手を離れた。


しかし依然、女子学生は無言のままだった。

顔をあげて、バックミラーをそっと見ると、女子学生は俯いたまま、タオルを握り、微かにうなづいたように見えた。


・・・・乗せないほうがよかったのだろうか・・・・余計な気遣いだったのだろうか・・・・・・

そんなことを思いながら、とりあえず駅まで行こうと思い、ウィンカーを出し、再びハンドルを握った。



・・・・夕立と少女【後編】へ続く ・・・・