このクソ親父(一部)
「帰ってくんなぁ~!このクソ親父!・・・。」
小石を握り締めながら、明らかに敵意むき出しの目で、子供達は、Y氏のほうをじっと睨みつけていた。
Y氏は、一瞬たじろいだが、それよりも何が起こっているのかさえ全く理解不能だった。
・・・・・・・・・その2日前のこと・・・・・・・・・・・・・
Y氏は転職先が見つからないまま、長引いた離婚調停もようやく落ち着き、何とか気持ちの整理をつけようと再スタートを決意し、新しい街へ引越してきて間もない頃の話だ。
その年は、猛暑日が長く続きとても暑かったある夏のこと・・・。
Y氏が、引越し先としてその街を選んだのは、特別な理由などなかったのだが、たまたま冊子で、目に留まったそのアパートがとにかく安かった!
アパートの家賃が、かなり格安だったこと(4万円以下だったと思う)
そして、何より多少は古かったものの(築15年以上)部屋も間取りも
とても広かった。
6畳と4畳半だったが、確かに2DKでしかもお風呂だけは新しくリフォームされていた。
また多少駅からは、離れていたものの徒歩で、通えない距離ではなかった。
部屋を下見行ったときは、午後3時ぐらい・・・・・
日当たりも気持ちよく、Y氏は即決すると、契約をすませて2か月分の家賃を納めた。
すぐには引っ越せなかったが、その翌々週に休みをもらい、ようやくアパートへ越してきた。
そして、新居のアパートで過ごした初日・・・『後悔』の二文字は、すぐにやってきた。
Y氏は、アパートの鍵を開けると、6畳の部屋におかれた荷物を整理していた。
「ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン・・・・・・。」
「ポワァーーーーーーーーーーーーン。」
「ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン・・・・・・。」
Y氏:「な、なんじゃ、こりゃ~~~~~~~っ!」
そう、すぐ側には、線路があった!!!通りすぎる電車の音だった。
若干、立て付けの悪いガラス窓もガタガタと揺れるぐらいの振動さえあった。
Y氏は、急いで不動産屋に連絡をとった。クレームでも言って返金してもらおう!かと。
Y氏:「もしもし、○×不動産ですか?私、△△△△△アパートに越してきたものですけど・・・。」
不動産屋:「えっ、ああぁ、△△△△△アパートの方ですか???」
・・・・意味深な返答・・・・・
Y氏:「実は、電車の騒音がめちゃくちゃウルサイんですけど、こんなの聞いてなんですけど・・・・。」
不動産屋:「あぁぁ、電車の騒音のことですかぁ・・・・。」
・・・・またまた意味深な返答・・・・・
不動産屋:「確かに、電車の事は、お伝えしましたよぉ~、それに線路の側だから、そのぐらいの騒音だって分かりますよねぇ。」
契約書を見ると確かに、電車の騒音のことが記載されてある。
しかも、Y氏もその線路を確かに見ていた・・・。何故、下見の時に電車が、ここを通過しなかったんだ!!!
Y氏は、何も言い返せないまま、ただただ自分に腹が立って仕方がなかった。
電車の音は、決して嫌いなわけではなかったが、遠くに聞こえるかすかな電車の音や、自分が乗ろうと駅で待っている時に限る。
部屋の中で、こんなにも近い電車の騒音は、今まで聴いたことがなかった。
Y氏は、2ヶ月分の家賃を既に支払ってしまっていたが、今すぐにでも引っ越したい気分になっていた。
しかし、その資金すらもう手元には残っていなく、離婚の慰謝料の支払いすらまだ残っていた。
解きかけたダンボールの荷物を、ふたたび押し込むとやるせない気持ちのまま、部屋のカギを握り締めると外に出た。
こみ上げてくる真夏の午後の熱気が、Y氏の気だるさを倍増させた。
そのアパートは、元来一軒家だった建物を改造したもので、1階も2階もそれぞれ一部屋(一世帯)ずつしか存在していない、借家のような作りになっていた。
したがって、外の階段は、後からつけたもので、部屋の裏手に回ってから昇り降りするようになっていた。
Y氏は、その階段にもイライラしながら、駅前へ行くと初めての中華屋へ入った。
これからの2ヶ月(契約)の事を考えると落ち込む一方だったが、冷たい生ビールとグイッと呑むと少し気分も落ち着き、餃子定食で食事を済ませるとトボトボとまた独りアパートへ戻ってきた。
!!!!!!!!が、しかし!!!!!!!
『引越しの後悔』は、それだけでは終わらなかったのだ。
このクソ親父(二部)へ つづく