りんくさまさま

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真夜中のタクシーチケット【後編】

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真夜中のタクシーチケット【前編】から つづき


タクシーメーターが、4千円近くになった頃、後部座席から呪いでもかけんばかりにメーターに向かって、そっと両手をかざしながら、ガンを飛ばしているY氏に・・・・
 

運転手がおもむろに話し始めた。


運転手:「実は、昨日娘が帰ってきたんですよ。」

Y氏:「そうですか、何処か海外にでもご旅行に行かれてたんですか?」


運転手:「いえいえ、家出をしてからやっと帰ってきてくれたんです。」

Y氏:「・・・・。」


運転手は、まるで一緒にお酒を酌み交わしているかのように、急に語り口調になった。


運転手:「2年前に、女房を急に病気で失くしまってねぇ、ずっと独りで暮らしてて、そりゃもう寂しくてぇ~。」

Y氏:「どうして、急に娘さん帰ってこられたんですか?」


運転手:「実は・・・娘が高校生の頃、クスリで逮捕されちまって、一度も顔を合わせることがないまま、私が縁を切ったんです。」

「女房が元気なうちは、時々連絡をとってた、らしいんだけども・・・・。」

「亡くなったことを知らせようと思って探したら、厚生施設に入っていた・・・。」

「俺だけは、それをずっと知らなかった・・・・・うん・・・んでも、やっと立ち直って帰ってきた。」



Y氏:「・・・・・・・・。」


運転手:娘がねぇ

・・・・「家族でも他人でも、人に優しくしてもらったら、その分、自分も優しくしなきゃだめだよ。」・・・・

って施設にいる間、家の女房に何回も言われたって。




Y氏:「そうだったんですか・・・・。」



タクシーメーターは、もう間もなく、8千円を越えようとしていた。


Y氏:「そろそろ、この辺りで降ろしていただいて結構です。」


運転手:「そうですか、わかりました。」


支払いのメーターをあげて、タクシーが止まった。行く先までの半分も走っただろうか・・・。



Y氏は、有り金を全部、運転手に手渡すと・・・・


Y氏:「どうか、お元気でご家族で仲良く、お幸せに暮らしてくださいね。」


そう言い、降りようとした。


すると運転手が、

運転手:「M戸市のどこまでだい? 家族は、家にいるの?」

Y氏:「いえいえ、独り暮らしで家にも誰もいないし・・・・。」

運転手:「お金は、払ってもらわなくていいから、貴方も誰かに、私のチケットを返してあげてくださいね。」


Y氏が、運転手が確かに言った・・・・


・・・・・『チケット』・・・・・


その意味が理解できるまで、そう時間はかからなかった。


そう言いと、ドアを再び閉めると、メーターをあげることなく、タクシーはゆっくりと走りだした。

窓から見える夜明け前の静かな街の灯りが、Y氏には、かすんで見えなかった。